糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

入院中糖尿病教育と再入院率低減との関連:急性期病院での僕らの役目って…

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・はじめに

現在、糖尿病教育入院した患者のデータを使って研究中です。

そんなときふと 「糖尿病教育入院」に関する英文って全然みたことないな。。。」 とおもって調べたところ約10年前にこんな論文(2013年Diabetes care)をみつけました!

 

Inpatient Diabetes Education Is Associated With Less Frequent Hospital Readmission Among Patients With Poor Glycemic Control

Diabetes Care 2013 Oct; 36(10): 2960-2967.

https://doi.org/10.2337/dc13-0108

 

というわけで、、、

 

本論文の学びポイント

  • 「糖尿病教育の効果・意義」を「再入院リスクの減少」として評価
  • 外来ではなく入院中の糖尿病専門医の介入の意義を評価(感謝)
  • Hb1c 9%以上のような血糖管理不良の患者さんが糖尿病以外で入院したときに,病棟コンサルトで糖尿病のスペシャリストが介入するだけで,その入院理由に関わらず再入院を減らせるかもしれない

 

物語の始まりと終わり

  • ”再入院”という医療費の高騰を促進させており,国レベルで悩まれている
  • とくに糖尿病は,病院に再入院するリスクが高い
  • いくつかの研究では入院中に糖尿病専門チームが介入(いわゆる他科で入院中の病棟コンサルトです)すると再入院を減らせる可能性があるといわれているが,結論には至っていない
  • そこで,実際にHbA1c >9%以上の血糖管理不良患者を対象とした入院中の糖尿病チーム介入が,退院後の再入院率を下げられるか?を検討
  • 結果的に、糖尿病のコントロールが不十分な患者に対する糖尿病教育は30日までの再入院のオッズを34%、180日までに再入院のオッズを20%減少させた。
  • しかし,実際に糖尿病のコントロール不良を理由に入院した患者はほとんどいなかった。つまり,糖尿病教育は,内科的治療や食事療法のアドヒアランスを促進することで血糖関連にとどまらず,一般的なセルフケア行動を改善させることで,他の疾患にまで間接的に良い影響を与えているかもしれない

 

要約

目的:

  • 糖尿病のコントロールが不十分な患者において,入院中の糖尿病教育(Inpatient diabetes education: IDE)と再入院との関係を検討

方法:

  • 2008~2010年に入院した,糖尿病の退院診断(ICD-9コードx)およびHbA1c>9%の患者をレトロスペクティブに同定
  • 退院後30日以内と180日以内の再入院を判定
  • IDEは糖尿病認定教育者または研修生によって行われた

IDEと再入院の関係はロジスティック回帰モデルを用いて解析

結果:

  • 30日後解析には2,265例,180日後解析には2,069例が対象となった
  • IDEを受けた患者は受けなかった患者に比べて、30日以内の再入院の頻度が低く(11 vs. 16%、P = 0.0001),社会人口学的因子および疾病関連因子で調整しても同様であった(オッズ比66[95%CI 0.51-0.85]、P = 0.001)
  • このモデルでは、メディケイド保険(米国の医療保険)と長期滞在も独立した予測因子であった
  • IDEは180日以内の再入院(all-cause hospital readmission)の減少にも関連はしていたが、その関連性は弱まっていた
  • 最終的な180日モデルでは、IDEがないこと、アフリカ系アメリカ人の人種、メディケイドまたはメディケア保険、長期滞在、HbA1cの低下が再入院の増加と独立して関連していた
  • さらにHbA1cが高い患者のなかでも糖尿病教育を受けた患者のみで再入院の頻度が低くなっていた

結論:

  • IDEは30日以内の病院再入院の頻度の低下と独立して関連していたが,この関連性は180日までに弱まっていた。

 

大事な図表

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ORが今回のキモです

たしかに有意ですが関連性は弱まっていますね

 

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左:30日時点でのHbA1c

右:180日時点でのHbA1c

 

さいごに

糖尿病専門医としては、もっとはっきりと「1ヶ月だけでなく半年間での再入院率減少と関連があった!」と書いてほしかったところです…が、そこは科学的論文ですので、ちゃんとしてますw

 

実は海外ではそもそも糖尿病教育のために入院なんてせず、全部外来で済まします。もちろん、その分外来には医者よりも指導がうまいプロが在中していますし、ちゃんと入院下での教育と同等またはそれより優るようなエビデンスも出ています。

 

とはいえ、教育入院が外来教育に優る劣るというのではなく、教育入院が必要な方は間違いなくいらっしゃいます。ですが、海外では保険の問題が大きく、お金がないとそんなことはできないです。国民皆保険の日本だからこそ、今でも教育入院が必要なひとにちゃんと入院させてあげられるのかもしれませんね

 

参考文献

Inpatient Diabetes Education Is Associated With Less Frequent Hospital Readmission Among Patients With Poor Glycemic Control

Sara J. Healy et al

Diabetes Care 2013 Oct; 36(10): 2960-2967.

https://doi.org/10.2337/dc13-0108