JCEM: 原発性アルドステロン症に関連した抑うつ・不安の原因を追求
Autonomous Cortisol Secretion Influences Psychopathological Symptoms in Patients With Primary Aldosteronism
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 106, Issue 6, June 2021, Pages e2423–e2433, https://doi.org/10.1210/clinem/dgab099
今回の論文は、PAに多くみられている「精神症状」の原因が、これまたPAと関連の深い「自律性コルチゾル分泌」が一因なのでは?という内容です。是非おたのしみください。。。
Introductionの注目内容
・ PA患者の52%が不安障害を認める(対照:本態性高血圧,17%; 正常血圧, 4%)
J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(6):E878-E883.
・ 未治療PA患者の男性56%、女性61%がうつ症状に悩んでいる
J Psychiatr Res. 2020;130:82-88.
・PA患者の大規模多施設コホート調査で、グルココルチコイドの同時分泌がPAで頻繁に見られる表現型であることが示唆された
JCI Insight. 2017;2(8):e93136.
・別の大規模な研究では、新たにPAと診断された患者の75%以上が、クッシング症候群のスクリーニングテスト(1mgDST, 唾液中コルチゾル、24時間尿中コルチゾル)のうち少なくとも1つが陽性反応を示したことから、自律的なコルチゾル分泌 (ACS)がPA患者の大部分に共通する特徴である可能性が判明
J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(3):dgz159.
Take Home Message
Abstract
【背景】
原発性アルドステロン症(PA)は、生活の質(QoL)の低下と関連している。PAとコルチゾール自律分泌(ACS)にも関連があり、このコルチゾル自律性分泌がうつや不安障害の原因となっている可能性について、これまで調査されていない
【目的】
【方法】
German Conn's Registryで新たにPAと診断された患者を対象に、高コルチゾール血症の検査を行い、不安、抑うつ、QoLを自己評価式の質問票で評価
【結果】
・不安(P<0.001)、抑うつ(P < 0.001)、QoL(精神的P=0.021、身体的P=0.015)のスコアが有意に改善
・この改善は、ACSのある患者とない患者の両方のサブグループで認められた(ACSのない患者の精神的サブスコアを除く)
・男女別だと
→ 不安はACSあり及びACSなしの女性で有意に減少したが、ACSなしの男性で改善せず
→ うつはACS患者の男性と女性で有意に改善したが、ACSなしの患者で改善せず
・QoLの身体的サブスコアはACSの女性で有意に改善、精神的サブスコアはACSの男性で有意に改善したが、ACSなしのグループでは差が見られず
【結論】
ACS患者では、PA治療に対する抑うつおよび不安のスコアの改善が、ACSを持たない患者と比較して顕著であり、PA患者の精神病理学的症状にACSが関与していることが示唆された。さらに、うつ病と不安神経症のスコアには、男女間で有意な差があった。
Main Result
PHQDと向精神薬投薬率:女性(A)と男性(B)
SF-12 (精神サブスコアと身体サブスコア):女性(A)と男性(B)
・ PA療法の種類に関する分析では、ADX (手術:副腎摘出) よりもMRA (薬物: アルドステロン拮抗薬)を受けた患者の方が、追跡調査時のGAD-7スコアが有意に高かった(4.9±4.4 vs 3.7±4.4; P = 0.017)が、PHQ-Dスコアには差がなかった(P = 0.08)
・ 手術と比較して、薬物治療ではフォローアップ時にSF-12精神スコアが悪かったが(48.2±10.6 vs. 53.3±8.3; P = 0.001)、SF-12身体スコアには差が見られなかった
・ 男女別の分析では、SF-12精神スコア、GAD-7、PHQ-Dにおいて、MRAとADXの間に有意な差はなかった。また、ADXを受けた男性は、SF-12身体スコアにおいて、MRA療法を受けた男性よりもスコアが悪かった(42.4±12.1対52.1±5.5、P = 0.03)
Discussionの興味深い内容
・本結果で興味深いのは、やはり結果に顕著な性差があることです。おそらく、コルチゾルとアルドステロンの影響に性差があること
・過去にこれまでの研究で、ミネラルコルチコイド受容体(MR)が恐怖条件付けパラダイムにおける行動に関わるであることが示されている(本文未記載)
・さらに、前脳にあるMRを欠損させると、雌雄のマウスで情動行動や認知行動に大きな違いが生じ、ストレスや不安に支配された疾患の雌の有病率にこの受容体が関与していることが示唆されたという研究結果がある Eur J Neurosci. 2012;36(8):3096
最後に
これまで沢山の原発性アルドステロン症(以下PA)の患者さんを診てきましたが、特に女性のPA患者さんに泣かれることが多くて、なんでだろう?とずっと気になっていましたが、そもそもPA患者にはこんなにも不安・うつが多いことを、この論文よんで知りました。。。
大学病院勤務し始めたばかりの頃に、PAの女性患者さんに点滴針挿入を一度失敗したら、泣かれて担当交代させられたことは今でも記憶に残っています…
その後、女性のPA患者さんに外来や病棟で泣かれたことが2度ありました。もちろん、ついでに誤解がないように言っておきますが、他の症例で泣かれたことはありません!
ちょっと一言
本研究はRelevarentで臨床的に非常に興味深い内容ですが、やや統計学的検討があっさりしています。本母集団の年齢をみると、特に女性は閉経前後の患者が多いですね。更年期障害による精神症状をみている可能性もあるので、是非、年齢補正してほしいところです。むしろ、エストロゲンとアルドステロン、コルチゾルとの関連もあるのかもしれませんが、、、