糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

Up to date: 治療抵抗性高血圧の次の一手

ちかごろ、糖尿病や内分泌の外来診療において困ることは少なくなってきました。

が、結構困るのは「抵抗性高血圧」です…(*1)

 

Up to dateでは、治療抵抗性高血圧への最初の一手として…「利尿剤の強化」を強く推しておりました。そこで、この辺のup to date記事をまとめてみました。


1.要点

・ 治療抵抗性高血圧には、まず腎機能利尿剤を見直す

・ 最近の研究では、サイアザイド系利尿剤よりサイアザイド系類似薬のほうが、効果の面でもアウトカム改善の面でも優れている

・ 利尿剤の漸増を怠らない

・ 4剤目はミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(ただしカリウムには注意!)

 

2. 「サイアザイド系利尿剤」と「サイアザイド系類似薬」

・「サイアザイド系利尿剤」の日本代表は、Trichlormethiazide(フルイトラン)と Hydrochlorothiazide (ヒドロクロロチアジド)

 

・「サイアザイド系類似薬」の日本代表は、Indapamide (ナトリックス)

 

以前はこれら2つに大きな違いはないと考えられてきた。

しかし、最近この二つの薬剤は構造的にも薬理学的にも異なっていることが明らかに…

さらに、降圧効果、持続時間、そして最も重要な心血管イベント発生率の低下の点で、サイアザイド類似化合物がサイアザイド系利尿薬よりも優れていることが明確に示されている(PMID: 25733245)

 

3.抵抗性高血圧で見直すべきは腎機能と利尿剤

① eGFRが30以上

"フルイトラン" か "ヒドロクロロチアジド"内服中  → "ナトリックス" へ変更

既に "ナトリックス"に変更していても持続的な体液過剰(浮腫など)の徴候がある場合、ループ利尿薬を追加(この方法を sequential nephron blockade といいます)

 

② eGFRが30未満

ループ利尿薬への追加または変更

既にループ利尿薬を服用している場合は、患者に低血圧徴候がない限り、ループ利尿薬の用量を増量(トルセミドのような作用時間が長いループ利尿薬の方が効果的な場合がある)

 

4.慎重に、かつしっかりと利尿剤を増量

利尿薬は、血圧目標達成するまで、最大推奨量まで、または体液減少徴候や利尿過剰を発現するまで、漸増させるべき(←結構攻め気)。ただし、利尿薬の切り替えや投与量の変更時には電解質に注意すべし


とくにMR活性に伴う低カリウム血症が合併している患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗剤も有効かも…。これは、サイアザイドでも高血圧が持続する患者で、アルドステロン濃度、高値カリウム低値、ARR高値、BNP高値で体液過剰をきたしている可能性が既報で示されてたためである (PMID: 18541823)


5.利尿剤増量しても下がらない場合(概略)

次なる一手は、、、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬ですね
ただし、高カリウム血症には注意です…(*) 

さて、その4剤併用療法を行っても高血圧が残る患者は存在します。5剤目を何にスべきかは決まっていないので、それこそテーラーメイドです

実際には、β遮断薬かα遮断薬のいずれかになることが多いと思います

 

Up to dateに書かれている例としては、以下のような感じです
心拍数が速い(1分間に70回以上)患者では、β遮断薬を追加することが有効である。ラベタロール、カルベジロールなどの血管拡張作用のあるβブロッカーは、特に高用量を使用した場合、従来のβブロッカーと比較して、より少ない副作用でより多くの降圧効果が得られる可能性がある。

 

 補足

*1 治療抵抗性高血圧の定義

クラスの異なる3種類の降圧剤を最大耐用量で服用し、そのうち1種類は利尿剤(利尿剤は腎機能に応じて選択)を使用しているにもかかわらず、血圧が目標値を超えている

そして、4種類以上の降圧剤を服用しながらも血圧が目標値に達している患者は、"コントロールされた抵抗性高血圧 "というらしい

もちろん、白衣性高血圧と治療不遵守の両方の除外と、さらに2次性高血圧の検索が重要

 

*2:慢性的な軽度高K血症について

とくに、他の利尿剤を十分使用していても慢性の高K血症が持続する場合は、日本ではロケルマ(Zirconium cyclosilicate)の使用を勧めたい

なぜか…?

up to dateの記事には、緊急性に乏しい高K血症では、カリメートなどのレジン系は勧められないとかなり強調されているからです…