糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

内分泌専門医による脂質異常症マネジメント:治療薬の安全性について

 

前回の続きになります

dr-bon.hatenablog.com

 

今回は前回の内分泌専門医による脂質異常症ガイドラインの内容の続きで、とくに脂質降下薬の安全性に関するコメントをまとました。

 

ポイント

 

・スタチンは、ミオパチー (0.1%未満)、重篤な肝障害(10万人に1人)は思ったよりも頻度が少なく、むしろ副作用を気にしすぎて忍容性がないと誤って捉えられることのほうが多い

・スタチンによる予後改善効果が大きいと判断される患者において、軽度CK上昇、肝酵素上昇による継続中止は慎重にするべき

・エゼチミブはシクロスポリンと相互作用があることに留意

・胆汁酸樹脂は、一時的にTGを上げることがあるので、TG値が500mg/dL以上の人では禁忌

EPA+DHAは、TGが500mg/dLを超える患者の膵炎リスクを低下させることが示されているが、ASCVDリスクの低下に関するエビデンスはなく、心房細動および出血の増加と関連している

ナイアシンは、非常に扱いづらい…

 

1. スタチン

【ミオパシー/横紋筋融解】

・ ミオパシーの定義は、原因不明の筋肉痛や筋力低下、CK上昇が正常上限の10倍以上

・ 女性では男性より低いCK上昇でミオパシーが現れる可能性あり

・ スタチン開始後のミオパシーが発生までの期間は様々で、スタチン開始数年後に発生することもある

・ CK 10,000 IU/L以上やULN 40倍以上など極端な場合は、ミオパシーの重症型である横紋筋融解症を考慮する必要がある

・ 横紋筋融解症は、急性腎不全やミオグロビン尿などの腎障害を伴えば緊急処置が必要

・ ミオパシーは稀で、ほとんどのスタチンで0.1%未満、横紋筋融解症の発生率はさらに低く、0.01%未満である

・ ミオパシー/横紋筋融解症の危険因子としては、高齢、女性、糖尿病、中国系、腎不全、既存の筋肉疾患、甲状腺機能低下症、薬物相互作用など

・ ミオパシーの患者では、スタチンの投与を中止すると、通常、数日以内に筋肉の症状が消失し、CK値が低下し、2~3週間以内に正常値に戻る

・ 横紋筋融解が疑われる場合、集中的な水分補給は通常、腎不全の予防に有効

・ 約 10%の患者が、必ずしもスタチンが原因ではない有害な症状のためにスタチンの使用を中止しており、 しばしばスタチン不耐症とレッテルを貼られる

・ 最も一般的な症状は筋力低下や痛みであり、これらは通常、CKの上昇を伴わない

【糖尿病新規発症】

・ 無作為化対照試験およびRCTのメタアナリシスによると、スタチンは新たに糖尿病と診断されるリスクを増加させ、最も一般的なのは糖尿病の複数の危険因子を持つ患者であり、集団のベースラインリスクに応じて年間約0.2%の絶対的リスクがあることが示されている

・ 新たに糖尿病と診断されるリスクが増加するにもかかわらず、スタチンのベネフィットがリスクを上回っており、通常、新たに糖尿病を発症した患者でも継続して使用される

 

【肝機能の有害事象】

・ 肝臓に作用するスタチン系薬剤は、臨床試験において最大1%の患者で、ULNの3倍以上の肝トランスアミナーゼの上昇(AST<ALT)が確認され、用量に関連した無症状の上昇を引き起こす。しかし、これらの患者は通常、重度の肝疾患を発症しない。

・ 慢性肝疾患患者を対象としたRCTを含む研究では、トランスアミナーゼの緩やかな上昇(ULNの3倍未満)を含む非アルコール性脂肪性肝疾患患者においても、スタチンは安全であることが示されている

・ トランスアミナーゼがULNの3倍まで上昇し、その他に肝性脂肪症の証拠がある人でも、LDL-Cおよび/またはCVのリスク低減のために必要であれば、スタチンを安全に開始することができる

・ 重篤な肝障害(肝毒性)は極めて稀であり、10万人に1人程度と推定され、臨床試験では検出されない


2. エゼチミブ

・ トランスアミナーゼの上昇が観察されているが、エゼチミブを服用している患者ではまれであり、エゼチミブが原因である可能性は低い。ただし、中等度または重度の肝疾患を有する患者には使用すべきではないとされている

・ 6年間の追跡調査による無作為化比較試験のデータでは、エゼチミブがミオパチー/横紋筋融解、肝トランスアミナーゼの3倍以上の上昇、胆嚢障害(胆嚢摘出術を含む)、またはがんを引き起こすという証拠はなかった

・ エゼチミブはシクロスポリンの血漿中濃度を上昇させるため、シクロスポリンの濃度を監視する必要がある

 

3. 胆汁酸結合樹脂

・ 胆汁酸結合樹脂の副作用には、便秘、腹痛、膨満感、鼓腸、肝トランスアミナーゼの上昇などがある

・ 胆汁酸の結合は、葉酸脂溶性ビタミン、さまざまな医薬品の吸収を低下させるので、これを防ぐために、薬は胆汁酸結合樹脂の2~4時間前または4~6時間後に服用する必要がある

・ Colesevelamは胃腸障害の副作用が少なく、このクラスの薬剤の中では最も忍容性の高い薬剤と考えられている。また、胆汁酸に対する選択性が高いため、他の薬剤や栄養素の吸収を阻害する可能性が低い。

・ 胆汁酸樹脂は、TG値が500mg/dL以上の人では、TG値を10%~20%上昇させる可能性があるため禁忌とされている

 

4. フィブラート

・ 米国の有害事象報告システムの評価では、フェノフィブラートとスタチンによる横紋筋融解症は処方箋100万件あたり4.5件報告

・ シンバスタチンを背景にフェノフィブラートとプラセボを評価した大規模な無作為二重盲検CVDアウトカム試験(5,000人以上)では、約5年間の追跡調査の結果、ULNの10倍以上のCK上昇の発生率は、フェノフィブラート群で0.4%、プラセボ群で0.3%

 

5. オメガ3系脂肪酸

・ オメガ3脂肪酸は、EPA+DHAまたはEPA単独で、TGを多く含む肝臓でのVLDLの生成を抑え、また、LPL活性を高めることでTGを多く含むリポタンパク質のクリアランスを増加させる可能性がある

・ REDUCE-IT試験では、ASCVDリスクの高い参加者をEPAエチルエステル群 (4g/day)とプラセボ群に無作為に割り付け、CVアウトカムを比較した。結果、ASCVDイベントの有意な減少が認められ、リスク/ベネフィットは良好であった。しかし、EPAエチルエステル群では、心房細動・心房粗動による入院が多く(3.1%対2.1%)、重篤な出血のイベントが多く(2.7%対2.1%)認めた(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/

・ オメガ3酸エチルエステル(EPADHAの組み合わせ)は、TGが500mg/dLを超える患者の膵炎リスクを低下させることが示されているが、ASCVDリスクの低下に関するエビデンスはなく、心房細動および出血の増加と関連している

 

6. ナイアシン

・ TG、総コレステロール、LDL-Cを減少させ、HDL-Cを増加させる
・ 安全性に問題があるため、ヨーロッパでは処方されていない
・ 最も一般的な有害事象は、顔面紅潮と痒み
・ ナイアシン血漿グルコースを増加させるため、新規糖尿病発症の増加と関連がるといわれている
・ AIM High試験およびHPS2-THRIVE試験で確認されたナイアシンのその他の重篤な副作用には、肝毒性(まれ)、感染症、GI出血、ミオパシーなどがあった
・ HPS2-THRIVE試験では、追跡期間が約4年であったため、スタチンにナイアシン・ラロピプラントを追加しても、ASCVDに対するベネフィットは示されなかった。
・ この結果とナイアシン治療に伴う安全性の問題から、今日ではナイアシンは使用を制限すべきであり、とくに糖尿病や耐糖能異常のある人にはおそらく使用すべきではないと考えられている。