糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

NEJM:副腎偶発腫(まとめ記事)

 

 

内分泌内科にもっとも多いコンサルト内容の1つがこの「副腎偶発腫」です!

悩むのは、フォロー仕方やどこまで精査すればいいのかということではないでしょうか。フォロー方法に関して、これまでにRCTが少ないために明確な指針がないことや、ホルモン産生性腫瘍の評価法も各論が複雑なため、非専門医の先生にとって非常にわかりにくい部分だと感じます。

一応欧州から発表された副腎偶発腫のGLもありますが、そもそも長くて専門としなければ読む気にはなれないと思います(泣)

そこで、最近NEJMから短くよくまとまった副腎偶発腫のまとめ記事が出ていたので、まとめておきます

 N Engl J Med 2021; 384:1542-1551

 

・要約

今回のまとめは簡潔によくまとまっているなぁ。。というが率直な意見です。とくに各論において、専門医の先生が一番迷う点(一番把握しておきたい点)を重点的に記述されているように感じました。PAは内分泌専門医であれば、よくわかっている人も多いので簡潔に書かれていたのではないかと思います(主観ですがw)

非専門医へ向けてのメッセージとして、

 

偶発的に副腎に腫瘍がみつかった場合には、

1.全例でホルモン産生性のスクリーニングを実施!

2.40歳以下や4cm以上の腫瘤であれば積極的に副腎癌の可能性を考慮して画像の専門家に相談

3.1cm未満で10 Hu以下であれば、画像フォローは不要という意見さえある。つまり、年単位でのスクリーニング定期検査という手もあるよ

4.残念ながらグレーゾーンに関しては、フォローの間隔は決まっていないですが…(症例ごとに異なるとしかいえないのが現状…)

といったところでしょうか

 

【副腎偶発腫の疫学】

・定義は「直径1cm以上の副腎腫瘍」
・成人における有病率は1~6%
・75%は非機能性
・約14%は過剰なコルチゾール、アルドステロン、またはその両方を分泌する機能性腫瘍
・約7%で褐色細胞腫、約4%で副腎原発癌または副腎への転移

 

【戦略とエビデンス

・RCTはなく、観察研究からのデータしかない
・ホルモン評価と画像診断は並行して行うべき
・40歳未満の患者では、副腎の偶発腫は一般的ではないため、6ヵ月後のフォローアップ画像を検討してもよい

 

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【ホルモン産生腺腫(各論)】

1.サブクリニカルクッシング病

・副腎偶発腫の1割程度で機能性としては最も多い
・非機能性の患者よりも高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常、骨粗鬆症の合併率が高い
・聴取事項:体重増加、あざができやすい、体の力が入りにくい、傷の治りが悪い、記憶力や認知機能の低下
・理学的初見:中心性肥満、紫色線条、満月様顔貌と水牛様肩、ニキビ、多毛など
・1mgDSTは前例に行う
・1mgDSTの評価は結論がついていない
1.8μg/dL以上で感度は高く(95~100%)、特異性は低い(60~80%)
5.0μg/dl以上で感度は低く(86%)、特異性は高い(92~97%)
・ACTH低下、24時間尿中コルチゾール濃度の上昇、夜間唾液中コルチゾール濃度の上昇、DHEASの低下なども参考になる
・非機能性とサブクリニカルクッシング症候群患者でのアウトカム比較したメタアナリシスでは、平均50.2ヵ月の追跡期間中に顕在性クッシング症候群に進行するリスクは、どちらのグループでも低かった(0.1%未満)。さらに、非機能性腫瘍の患者の4.3%のみがサブクリニカルクッシング症候群に移行し、サブクリニカルクッシング症候群の経過観察中に自然に消失した患者は0.1%未満であった(Ann Intern Med 2019; 171: 107-16)
2型糖尿病、高血圧、肥満、脂質異常症、椎体骨折、死亡のベースライン時に有病率は、サブクリニカルクッシング症候群で、非機能性の患者よりも高かった。サブクリニカルクッシング症候群患者を対象としたレトロスペクティブ研究では、1mg DSTで抑制がF 1.8μg/dl以上の患者では、非機能性腫瘍の患者よりも心血管疾患およびあらゆる原因による死亡のリスクが高く、そのコルチゾール値が高いほどリスクは高くなった。
・フォロー方法は 副腎摘出術とサーベイランスだが、この2つの優劣を比較した研究は不足している。
・副腎摘出術(23人)とサーベイランス(22人)を比較した小規模な無作為化比較試験では、手術後、2型糖尿病(8人中5人[62%])、高血圧(18人中12人[67%])、高脂血症(8人中3人[38%])の患者の状態が正常化または改善したのに対し、サーベイランス群ではこれらの状態が正常化または改善しなかった。手術群では6人中3人の患者が術後に肥満度が減少した。骨粗鬆症の患者5人では骨の測定値に変化が見られなかった(Ann Surg 2009; 249: 388-91)
・副腎摘出術は、共存する疾患やその他の要因に応じて検討することができ、一般的には、1mgDSTでコルチゾールが5.0μg/dlを超える患者に推奨される

 

日本版のサブクリニカルクッシング症候群の診断基準: http://www.yamaguchi-endocrine.org/pdf/yanase_201812.pdf

 

2.褐色細胞腫

・典型症状、家族歴を有することがおおい
・副腎偶発腫の1.5~14.0%が褐色細胞腫
・CTの画像的特徴が役立つ(単純CTで10 Hu以上、造影CTでの血管増生および壊死領域の存在、
MRIではT2 High
・偶発腫全例で褐色細胞腫の生化学的スクリーニングの実施が推奨されているが、CTで10 Hu以下のLipid-richな腫瘍であれば褐色細胞腫であることはめったにない(<0.5%)
・正確なスクリーニング検査は、血漿遊離メタネフリン濃度の測定(感度:89~100%、特異度:79~98%)または24時間尿中分画メタネフリン濃度(感度:86~97%、特異度:69~95%)である。
・ 褐色細胞腫と診断されたら、手術までに十分なα遮断後、必要に応じてβ遮断を投与する

 

3.原発性アルドステロン症

・偶発腫全体の1.6~3.3%
・全患者で午前中のアルドステロン濃度とレニン活性をスクリーニングすべし

 

4.他のホルモン産生腺腫

・性ホルモン(エストロゲンまたはテストステロン)分泌腫瘍を有する場合はほとんど顕著な臨床症状を伴う
・女性では、テストステロンの過剰は、顔面の発毛、にきび、声の深化などの男性化の特徴と関連する
エストロゲンの過剰は、不正子宮出血および乳房圧迫感と関連する
・男性の場合、エストロゲンを分泌する腫瘍は、女性化乳房、精巣の萎縮、性欲減退などを引き起こす


【癌の評価】

原発性悪性腫瘍またはその既往をもつ患者であれば副腎転移である可能性は最大で21%
・副腎に転移する可能性の高い癌は、肺がん、胃腸がん、メラノーマ、腎細胞がん
・大事なのは画像による評価(Table 2)
・副腎皮質がんのリスクは、腫瘍の直径が4cm未満で 2%未満、4cm~6cmで 6%、6cm以上で 25%以上
・注意スべきはがんのリスクを推定する上で重要なのは「年齢」
・40歳未満の患者では良性の偶発腫は稀であることから、この年齢層では小さい腫瘍(直径4cm未満)であっても癌の可能性が懸念される
・2次元(断面)の測定ではサイズが過小評価されることが多いため、副腎腫瘍を3次元(最大の長さ、幅、高さ)で測定するのが望ましい

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【両側性の場合】

・副腎偶発腫の患者の約15%は両側性(意外と多い!)
・両側副腎腫瘤の鑑別診断は
 原発性両側性大結節性副腎過形成および腺腫
 両側性褐色細胞腫
 先天性副腎過形成
 クッシング病または異所性ACTH分泌による両側性副腎過形成
 転移または原発性がん
 骨髄脂肪腫
 感染症結核など)
 出血
 部分的グルココルチコイド抵抗性など

・先天性副腎過形成除外目的に17-ヒドロキシプロゲステロン濃度の測定が必要(17-OHP)
・両側の副腎腫瘤が画像上で出血性または浸潤性であるように見える場合、副腎不全の可能性を考慮すべし

 

【非機能性の場合のフォローアップ】(実際一番悩む)

・最大径が4 cm以下でCT値 10Hu以下である非機能性腺腫では、たいてい画像のフォローは不要とされる
・非機能性副腎病変の4121例を対象としたメタアナリシスでは、中央値52.8ヵ月の追跡期間における腫瘍の平均成長は2mmであった。1cm以上の腫瘍拡大を認めた患者はわずか2.5%であり、どの患者にも副腎皮質がんは発生しなかった。
・画像診断で特徴が不確定な非機能性腫瘍の患者には、画像診断と生化学検査による追跡調査が推奨が、再評価のための最も適切な時間間隔は不明であり、ガイドラインによっても異なる(Ann Intern Med 2019; 171: 107-16.)

 

【不確かな事項】

・サブクリニカルクッシング症候群の診断基準とマネジメントがいまだに不明確
・サブクリニカルクッシング症候群が関連した代謝異常を特定し、手術によって寛解させるためには、さらなるデータが必要
・不確定的な画像特徴を有する非機能性の副腎偶発腫に対する様々なフォローアップ戦略を比較した研究が不足

 

・さいごに 

今回のまとめは簡潔によくまとまっているなぁ。。というが率直な意見です。とくに各論において、専門医の先生が一番迷う点(一番把握しておきたい点)を重点的に記述されているように感じました。PAは内分泌専門医であれば、よくわかっている人も多いので簡潔に書かれていたのではないかと思います(主観ですがw)

非専門医の方にとっては、偶発的に副腎に腫瘍がみつかった場合には、

1.全例でホルモン産生性のスクリーニングを実施し、

2.40歳以下や4cm以上の腫瘤であれば積極的に副腎癌の可能性を考慮して画像の専門家に相談する

3.1cm未満で10 Hu以下であれば、画像フォローは不要という意見さえある。つまり、年単位でのスクリーニング定期検査という手もある

4.残念ながらグレーゾーンに関しては、フォローの間隔は決まっていない(個々で相談)

といったところでしょうか