糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

最強SGLT2阻害薬の弱点

 

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本日は、最近すっっっっごく増えているSGLT2阻害薬の予後改善への有効性に関する研究です

うんざりするほど研究ネタにされている薬ではありますが(いい意味でw)、

意外なことに、これまでSGLT2阻害剤とSU剤との直接比較した研究は少ないようです

今回は米国退役軍人省コホートにて、SU vs. SGLT2iでガチ比較しております。

結果は俗語で申し訳ないですが、「SGLT2阻害薬の圧勝(SU群の惨敗…)」となります

 

でも実は、この論文の裏に隠されたメッセージが非常に重要です。

 

それは、

「SGLT2阻害薬の値段をなんとかして!」

ということ

 

なので、ここで一番伝えたいのは、「Discussionの内容」です。とくに、今回は薬剤系の企業からFundingをもらっていないのもポイント!まずは「大事なDiscussionポイント」を最初にまとめておきます(DIscussionの詳細は本文を御覧ください)

 

(ついでに、IPTW(傾向スコア分析手法の1つ)の進化系であるOverlap weighting を用いて解析されており、傾向スコア好きなひとにはたまらない一品に仕上がっております*)

大事なDiscussionポイント
  • 世界で使用されている第2選択としての糖尿病薬の第一位は「SU剤」というのが現状
  • 糖尿病の第2選択薬としてのSGLT2阻害薬への期待が高まる一方で、立ちはだかるのはコストの壁…
  • CVD既往の有無や腎機能に関係なく、一様にSU剤よりSGLT2iの有効性が示すことができたことで、たとえ "軽度リスク群"や "腎機能の悪い"患者であってもSGLT2iによる恩恵が受け入れられる可能性が示された
  • 最近徐々に増えているSGLT2阻害薬単剤使用されることが増えているが、今回の結果(SGLT2i単剤よりもメトホルミンとの併用のほうが、より死亡リスク低下と関連していた)から、もう一度メトホルミンの役割についてもよく考えるべきかもしれない
キーポイント

Research Question:

2型糖尿病の治療にメトホルミンを使用している人の全死亡リスクに対する効果を、SGLT2阻害薬とSU薬で比較するとどうなるか?

 

Key Finding 1:

メトホルミンを投与されている2型糖尿病患者128 293人を対象としたこの比較効果試験では、心血管疾患の有無、eGFR、アルブミン尿の有無にかかわらず、SGLT2iの使用は、SU薬と比較して、全死亡リスクの低減と関連していた

 

Key Finding 2:

メトホルミンを併用したSGLT2iの使用は、メトホルミンを併用しないSGLT2iと比較しても、さらに全死亡リスクの低下と関連していた

 

Meaning:

2型糖尿病の薬物治療選択の指針に大きく影響を与える結果である

要約

Intro:

重要性 2型糖尿病の治療において、SGLT2阻害薬と、メトホルミンに次いで広く使用されている血糖降下薬であるスルホニル尿素薬との比較効果に関するエビデンスは不足している。

 

Data/Design:

米国退役軍人省のデータを用いたコホート研究で,2型糖尿病治療のためにメトホルミンを投与されている患者を対象に,SGLT2阻害薬とSU剤の使用を比較

2016年10月1日から2020年2月29日の間に、SGLT2阻害薬を新たに使用した23 870人と、SU剤を新たに使用した104 423人を登録し、2021年1月31日まで追跡調査

 

Exposure:

SGLT2 阻害剤またはSU剤の新規使用

 

Outcome:

アウトカムは全死亡

傾向スコアに基づくオーバーラップ加重法を用いて、SU剤と比較したSGLT2阻害剤のintention-to-treat効果サイズを推定

治療継続性の逆確率による重み付け法を用いて,per-protocol effect sizeを推定

 

Result:

128,293人の参加者(平均年齢 64.6 [9.84] 歳、122,096 [95.2%] 男性)のうち、23,870人がSGLT2阻害剤、104,423人がSU剤を投与

SGLT2阻害剤は、SU剤と比較して、全死亡リスク低減と関連(HR 0.81 [0.75-0.87])、イベント率の差は1,000人年あたり-5.15(-7.16~-3.02)

SU剤と比較して、SGLT2阻害剤は心血管疾患の有無にかかわらず、eGFRのいくつかのカテゴリー(eGFR>90, <30も含め)、およびアルブミン尿なし(ACR 30mg/g以下)、微量アルブミン尿(ACR 30~300mg/g)、およびマクロアルブミン尿(ACR 300mg/g以上)において、死亡リスクの低下と関連

per-protocol解析では、SGLT2阻害剤の継続使用は、SU剤の継続使用と比較して、死亡リスクの低減と関連(HR 0.66)

さらにプロトコルごとの解析では、SGLT2阻害剤とメトホルミンの併用を継続することは、メトホルミンを併用しないSGLT2阻害剤治療と比較して、死亡リスクの低減と関連していた(HR 0.70

[50-0.97])

 

Conclusion:

 

米国退役軍人省のデータを分析したこの比較効果試験では、メトホルミン療法を受けている2型糖尿病患者において、SGLT2阻害剤の投与は、SU剤と比較して、全死亡リスクの低下と関連

この結果は、抗血糖療法の選択の指針となりうる実社会でのデータを提供するものである

Figure and Table

「もうやめてくれ~」ってほど差がでてます…

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さいごに

この論文は「SGLT2阻害薬の値段やアクセスに対する政策の必要性」に関する政府へのメッセージが込められています。

また、最近徐々に増えているSGLT2阻害薬単剤使用にも警鐘を鳴らしています。僕も、単剤使用患者がいるのでちょっとドキッとしました…

この論文に関するエディターノートも是非読んでみてください↓

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2781475

統計マニアさんへ

この論文のもう1つ面白いことに、解析にIPTWの弱点を補った進化Verを使っている点であります

興味のある方はこちらの論文も参考にどうぞ↓

Addressing Extreme Propensity Scores via the Overlap Weights Am J Epidemiol . 2019 Jan 1;188(1):250-257 PMID: 30189042 DOI: 10.1093/aje/kwy201