糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

最強SGLT2阻害薬の弱点

 

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本日は、最近すっっっっごく増えているSGLT2阻害薬の予後改善への有効性に関する研究です

うんざりするほど研究ネタにされている薬ではありますが(いい意味でw)、

意外なことに、これまでSGLT2阻害剤とSU剤との直接比較した研究は少ないようです

今回は米国退役軍人省コホートにて、SU vs. SGLT2iでガチ比較しております。

結果は俗語で申し訳ないですが、「SGLT2阻害薬の圧勝(SU群の惨敗…)」となります

 

でも実は、この論文の裏に隠されたメッセージが非常に重要です。

 

それは、

「SGLT2阻害薬の値段をなんとかして!」

ということ

 

なので、ここで一番伝えたいのは、「Discussionの内容」です。とくに、今回は薬剤系の企業からFundingをもらっていないのもポイント!まずは「大事なDiscussionポイント」を最初にまとめておきます(DIscussionの詳細は本文を御覧ください)

 

(ついでに、IPTW(傾向スコア分析手法の1つ)の進化系であるOverlap weighting を用いて解析されており、傾向スコア好きなひとにはたまらない一品に仕上がっております*)

大事なDiscussionポイント
  • 世界で使用されている第2選択としての糖尿病薬の第一位は「SU剤」というのが現状
  • 糖尿病の第2選択薬としてのSGLT2阻害薬への期待が高まる一方で、立ちはだかるのはコストの壁…
  • CVD既往の有無や腎機能に関係なく、一様にSU剤よりSGLT2iの有効性が示すことができたことで、たとえ "軽度リスク群"や "腎機能の悪い"患者であってもSGLT2iによる恩恵が受け入れられる可能性が示された
  • 最近徐々に増えているSGLT2阻害薬単剤使用されることが増えているが、今回の結果(SGLT2i単剤よりもメトホルミンとの併用のほうが、より死亡リスク低下と関連していた)から、もう一度メトホルミンの役割についてもよく考えるべきかもしれない
キーポイント

Research Question:

2型糖尿病の治療にメトホルミンを使用している人の全死亡リスクに対する効果を、SGLT2阻害薬とSU薬で比較するとどうなるか?

 

Key Finding 1:

メトホルミンを投与されている2型糖尿病患者128 293人を対象としたこの比較効果試験では、心血管疾患の有無、eGFR、アルブミン尿の有無にかかわらず、SGLT2iの使用は、SU薬と比較して、全死亡リスクの低減と関連していた

 

Key Finding 2:

メトホルミンを併用したSGLT2iの使用は、メトホルミンを併用しないSGLT2iと比較しても、さらに全死亡リスクの低下と関連していた

 

Meaning:

2型糖尿病の薬物治療選択の指針に大きく影響を与える結果である

要約

Intro:

重要性 2型糖尿病の治療において、SGLT2阻害薬と、メトホルミンに次いで広く使用されている血糖降下薬であるスルホニル尿素薬との比較効果に関するエビデンスは不足している。

 

Data/Design:

米国退役軍人省のデータを用いたコホート研究で,2型糖尿病治療のためにメトホルミンを投与されている患者を対象に,SGLT2阻害薬とSU剤の使用を比較

2016年10月1日から2020年2月29日の間に、SGLT2阻害薬を新たに使用した23 870人と、SU剤を新たに使用した104 423人を登録し、2021年1月31日まで追跡調査

 

Exposure:

SGLT2 阻害剤またはSU剤の新規使用

 

Outcome:

アウトカムは全死亡

傾向スコアに基づくオーバーラップ加重法を用いて、SU剤と比較したSGLT2阻害剤のintention-to-treat効果サイズを推定

治療継続性の逆確率による重み付け法を用いて,per-protocol effect sizeを推定

 

Result:

128,293人の参加者(平均年齢 64.6 [9.84] 歳、122,096 [95.2%] 男性)のうち、23,870人がSGLT2阻害剤、104,423人がSU剤を投与

SGLT2阻害剤は、SU剤と比較して、全死亡リスク低減と関連(HR 0.81 [0.75-0.87])、イベント率の差は1,000人年あたり-5.15(-7.16~-3.02)

SU剤と比較して、SGLT2阻害剤は心血管疾患の有無にかかわらず、eGFRのいくつかのカテゴリー(eGFR>90, <30も含め)、およびアルブミン尿なし(ACR 30mg/g以下)、微量アルブミン尿(ACR 30~300mg/g)、およびマクロアルブミン尿(ACR 300mg/g以上)において、死亡リスクの低下と関連

per-protocol解析では、SGLT2阻害剤の継続使用は、SU剤の継続使用と比較して、死亡リスクの低減と関連(HR 0.66)

さらにプロトコルごとの解析では、SGLT2阻害剤とメトホルミンの併用を継続することは、メトホルミンを併用しないSGLT2阻害剤治療と比較して、死亡リスクの低減と関連していた(HR 0.70

[50-0.97])

 

Conclusion:

 

米国退役軍人省のデータを分析したこの比較効果試験では、メトホルミン療法を受けている2型糖尿病患者において、SGLT2阻害剤の投与は、SU剤と比較して、全死亡リスクの低下と関連

この結果は、抗血糖療法の選択の指針となりうる実社会でのデータを提供するものである

Figure and Table

「もうやめてくれ~」ってほど差がでてます…

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さいごに

この論文は「SGLT2阻害薬の値段やアクセスに対する政策の必要性」に関する政府へのメッセージが込められています。

また、最近徐々に増えているSGLT2阻害薬単剤使用にも警鐘を鳴らしています。僕も、単剤使用患者がいるのでちょっとドキッとしました…

この論文に関するエディターノートも是非読んでみてください↓

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2781475

統計マニアさんへ

この論文のもう1つ面白いことに、解析にIPTWの弱点を補った進化Verを使っている点であります

興味のある方はこちらの論文も参考にどうぞ↓

Addressing Extreme Propensity Scores via the Overlap Weights Am J Epidemiol . 2019 Jan 1;188(1):250-257 PMID: 30189042 DOI: 10.1093/aje/kwy201

JAMA:高齢者への1次予防目的のアスピリン使用率とその問題点

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JAMA Netw Open. 2021;4(6):e2112210. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.12210

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2781116

 

本日は、予防疫学に関する論文をピックアップしました

 

 

「社会政策のためのビックデータを用いた疫学研究」のお手本となる論文です

予備知識として、CVD発症の1次予防目的で使用されるアスピリンに関して、2018年に行われた3つのRCTを知っておく必要があります(→イントロ)

それでは行きましょう

Take home Message

高齢者では、糖尿病の有無に関わらず、アスピリンの使用はその有益性が有害性に優るというエビデンスは乏しい

しかし、米国では、70歳以上の高齢者に1次予防のためのアスピリンをこれまで通りにルーチンに使い続けている割合が高いことが示唆された

とくに、糖尿病がある患者では、その傾向が強く現れていた

キーポイント

 Key Finding 1:

2011~2018年までの米国成人の60歳以上かつ糖尿病罹患者は61.7%に対し、糖尿病非罹患者は42.2%がアスピリンを使用

 

Key Finding 2:

アスピリン使用率は、非糖尿病者では高齢になるほど、また心血管疾患リスクが高くなるほど増加したが、糖尿病患者では一様に高かった (Table 2, 3 ↓)

 

Meaning:

最近改訂されたガイドラインでは、70歳以上の成人ではルーチン的なアスピリン使用(1次予防として)を控えるように勧告しているのもかかわらず、今回の結果であった…。 つまり、高齢者でもルーチン的なアスピリン使用を積極的に中止しなければ、特に糖尿病のある人ではアスピリンの過剰使用につながる恐れがある

イントロ

2018年にアスピリンによるCVD発症の1次予防に関して、3つのRCTが行われた

以下↓ に概要を記す

 

1. ARRIVE試験

糖尿病なしの55歳(男性)または60歳(女性)以上の平均的なリスク集団において、アスピリン使用とプラセボを比較したが、CVDイベントに差はなかった

2. ASPREE試験

70歳以上の一般集団、または65歳以上の黒人とヒスパニック系の人々を対象とし、CVD、認知症、その他の障害のない成人では、プラセボと比較してCVD予防の効果は認めらず、出血と全死亡のリスクは有意に増加していた

3 ASCEND試験(N Engl J Med. 2018;379(16):1529)

この試験では、40歳以上の糖尿病患者の一次予防目的アスピリン使用で、"CVDイベントリスク" が有意に低下したが、同時に "Major Bleedingの発生率" もほぼ同じ程度に高くなっていた

 

↑これら3つのStudyの結果から、

「高齢者を対象とした場合、糖尿病の有無にかかわらず、1次予防目的で使うアスピリンの有益性は一様ではないが、出血性有害事象のリスクが有意に増加とは関連している」ことがわかった。

現状、どの程度多くの高齢者に1次予防でアスピリン使われているかを把握したいため本研究をおこなった

要約

Intro:

最近の研究では、高齢者では予防的アスピリン使用が有害性を上回る可能性が示唆されている。したがって、高齢者における将来的な有害性のリスクを最小限に抑えるために、現在のアスピリン使用状況を把握することが重要である。

Aim:

米国の高齢者で、糖尿病の有無にかかわらず、一次予防および二次予防のためにアスピリンを使用している有病率を、年齢、性別、CVDリスク分類別に明らかにする。

Data/Design:

・2011年~2018年までの国民健康・栄養調査の全国代表データを用いた横断的分析 ・糖尿病の有無にかかわらず、60歳以上の7103人が予防的アスピリン使用に関するアンケートに回答

Outcome:

・予防的アスピリン使用を「参加者が医師の助言または自分の判断に基づいて低用量アスピリンを使用したという自己申告あり」と定義

Result:

・合計7103人(平均年齢69.6歳、男性45.2%、白人75.8%)

・米国の高齢者で糖尿病のある人の61.7%がアスピリンを使用していたのに対し、糖尿病のない人では42.2%

・糖尿病患者では、人種、性別、教育、CVDリスクカテゴリー、肥満度を調整した多変量ロジスティックモデルにおいて、高齢者と若年者(基準:60~69歳)のアスピリン使用の可能性に差はなかった

・糖尿病のない人では、年齢が高いほどアスピリンの使用率が基準値よりも有意に高かった

・糖尿病の有無にかかわらず、70歳以上の米国成人のうち、推定990万人が一次予防のためにアスピリンを服用していると報告

・CVDのリスクが高い人と低い人における一次予防のためのアスピリン使用の可能性は、糖尿病のある高齢者では差がなかったが、糖尿病のない高齢者では有意に高かった

・糖尿病のある女性と男性では、一次予防のためにアスピリンを使用している割合が低かった(モデル3、OR、0.63、95%CI、0.48-0.83)

Conclusion:

・糖尿病のある高齢者の方が、糖尿病がないよりもアスピリン使用による出血リスクが高いことはすでにわかっているにもかかわらず、糖尿病のある高齢者の方が、糖尿病がないよりも予防的アスピリン使用率が高いことがわかった ・これまで一次予防のためにアスピリンを服用していた990万人の米国の高齢者では、特に糖尿病を持つ場合おいて、その継続的な使用が必要か見直すべきだろう

 

Figure and Table

 

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Figure. Aspirin Use by Age Group and Cardiovascular Disease (CVD) Status in Older Adults With (n = 1987) vs Without (n = 5116) Diabetes

 

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さいごに

この、1次予防目的で使用されていたアスピリンのように、これまで若い世代を対象とした試験結果から、良しとされて続けられている治療が、高齢者にとって本当に益が優るのかどうかは慎重に判断していくべきでしょう

このような研究は、特に今後の高齢化社会では意義を増してきます

これまでは、高齢者のデータが少なく、高齢者にどこまで医療介入をすべきなのか不明な点が多いのが現状でした。でも、今では、ヒトの寿命が急激に伸び、加えて情報社会の成熟によって高齢者(70歳以上)を対象としたデータが使えるようになりました

これから、高齢化先進国の日本のデータを用いることで、このような高齢者対象の予防疫学的研究をもっと世界へ発信されることが期待されます

 

追記(20210718)

Medscapeでもコメントされてましたので追記します

www.medscape.com

 

Up to date: 治療抵抗性高血圧の次の一手

ちかごろ、糖尿病や内分泌の外来診療において困ることは少なくなってきました。

が、結構困るのは「抵抗性高血圧」です…(*1)

 

Up to dateでは、治療抵抗性高血圧への最初の一手として…「利尿剤の強化」を強く推しておりました。そこで、この辺のup to date記事をまとめてみました。


1.要点

・ 治療抵抗性高血圧には、まず腎機能利尿剤を見直す

・ 最近の研究では、サイアザイド系利尿剤よりサイアザイド系類似薬のほうが、効果の面でもアウトカム改善の面でも優れている

・ 利尿剤の漸増を怠らない

・ 4剤目はミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(ただしカリウムには注意!)

 

2. 「サイアザイド系利尿剤」と「サイアザイド系類似薬」

・「サイアザイド系利尿剤」の日本代表は、Trichlormethiazide(フルイトラン)と Hydrochlorothiazide (ヒドロクロロチアジド)

 

・「サイアザイド系類似薬」の日本代表は、Indapamide (ナトリックス)

 

以前はこれら2つに大きな違いはないと考えられてきた。

しかし、最近この二つの薬剤は構造的にも薬理学的にも異なっていることが明らかに…

さらに、降圧効果、持続時間、そして最も重要な心血管イベント発生率の低下の点で、サイアザイド類似化合物がサイアザイド系利尿薬よりも優れていることが明確に示されている(PMID: 25733245)

 

3.抵抗性高血圧で見直すべきは腎機能と利尿剤

① eGFRが30以上

"フルイトラン" か "ヒドロクロロチアジド"内服中  → "ナトリックス" へ変更

既に "ナトリックス"に変更していても持続的な体液過剰(浮腫など)の徴候がある場合、ループ利尿薬を追加(この方法を sequential nephron blockade といいます)

 

② eGFRが30未満

ループ利尿薬への追加または変更

既にループ利尿薬を服用している場合は、患者に低血圧徴候がない限り、ループ利尿薬の用量を増量(トルセミドのような作用時間が長いループ利尿薬の方が効果的な場合がある)

 

4.慎重に、かつしっかりと利尿剤を増量

利尿薬は、血圧目標達成するまで、最大推奨量まで、または体液減少徴候や利尿過剰を発現するまで、漸増させるべき(←結構攻め気)。ただし、利尿薬の切り替えや投与量の変更時には電解質に注意すべし


とくにMR活性に伴う低カリウム血症が合併している患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗剤も有効かも…。これは、サイアザイドでも高血圧が持続する患者で、アルドステロン濃度、高値カリウム低値、ARR高値、BNP高値で体液過剰をきたしている可能性が既報で示されてたためである (PMID: 18541823)


5.利尿剤増量しても下がらない場合(概略)

次なる一手は、、、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬ですね
ただし、高カリウム血症には注意です…(*) 

さて、その4剤併用療法を行っても高血圧が残る患者は存在します。5剤目を何にスべきかは決まっていないので、それこそテーラーメイドです

実際には、β遮断薬かα遮断薬のいずれかになることが多いと思います

 

Up to dateに書かれている例としては、以下のような感じです
心拍数が速い(1分間に70回以上)患者では、β遮断薬を追加することが有効である。ラベタロール、カルベジロールなどの血管拡張作用のあるβブロッカーは、特に高用量を使用した場合、従来のβブロッカーと比較して、より少ない副作用でより多くの降圧効果が得られる可能性がある。

 

 補足

*1 治療抵抗性高血圧の定義

クラスの異なる3種類の降圧剤を最大耐用量で服用し、そのうち1種類は利尿剤(利尿剤は腎機能に応じて選択)を使用しているにもかかわらず、血圧が目標値を超えている

そして、4種類以上の降圧剤を服用しながらも血圧が目標値に達している患者は、"コントロールされた抵抗性高血圧 "というらしい

もちろん、白衣性高血圧と治療不遵守の両方の除外と、さらに2次性高血圧の検索が重要

 

*2:慢性的な軽度高K血症について

とくに、他の利尿剤を十分使用していても慢性の高K血症が持続する場合は、日本ではロケルマ(Zirconium cyclosilicate)の使用を勧めたい

なぜか…?

up to dateの記事には、緊急性に乏しい高K血症では、カリメートなどのレジン系は勧められないとかなり強調されているからです…

JCEM: 原発性アルドステロン症に関連した抑うつ・不安の原因を追求

 Autonomous Cortisol Secretion Influences Psychopathological Symptoms in Patients With Primary Aldosteronism

The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 106, Issue 6, June 2021, Pages e2423–e2433, https://doi.org/10.1210/clinem/dgab099

 

今回の論文は、PAに多くみられている「精神症状」の原因が、これまたPAと関連の深い「自律性コルチゾル分泌」が一因なのでは?という内容です。是非おたのしみください。。。

 

Introductionの注目内容

・ PA患者の52%が不安障害を認める(対照:本態性高血圧,17%; 正常血圧, 4%)
J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(6):E878-E883.

・ 未治療PA患者の男性56%、女性61%がうつ症状に悩んでいる
J Psychiatr Res. 2020;130:82-88.

PA患者の大規模多施設コホート調査で、グルココルチコイドの同時分泌がPAで頻繁に見られる表現型であることが示唆された
JCI Insight. 2017;2(8):e93136.

 ・別の大規模な研究では、新たにPAと診断された患者の75%以上が、クッシング症候群のスクリーニングテスト(1mgDST, 唾液中コルチゾル、24時間尿中コルチゾル)のうち少なくとも1つが陽性反応を示したことから、自律的なコルチゾル分泌 (ACS)がPA患者の大部分に共通する特徴である可能性が判明
J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(3):dgz159.

 

Take Home Message

PA患者の精神症状の一部は自律性コルチゾル分泌が原因

 

Abstract

【背景】

原発性アルドステロン症(PA)は、生活の質(QoL)の低下と関連している。PAコルチゾール自律分泌(ACS)にも関連があり、このコルチゾル自律性分泌がうつや不安障害の原因となっている可能性について、これまで調査されていない

【目的】

ACSを原因としたPA患者のうつ・不安の有病率を評価

【方法】

German Conn's Registryで新たにPAと診断された患者を対象に、高コルチゾール血症の検査を行い、不安、抑うつQoLを自己評価式の質問票で評価

結果】

・不安(P<0.001)、抑うつ(P < 0.001)、QoL(精神的P=0.021、身体的P=0.015)のスコアが有意に改善

・この改善は、ACSのある患者とない患者の両方のサブグループで認められた(ACSのない患者の精神的サブスコアを除く)

・男女別だと

→ 不安はACSあり及びACSなしの女性で有意に減少したが、ACSなしの男性で改善せず

→ うつはACS患者の男性と女性で有意に改善したが、ACSなしの患者で改善せず

QoLの身体的サブスコアはACSの女性で有意に改善、精神的サブスコアはACSの男性で有意に改善したが、ACSなしのグループでは差が見られず

【結論】

ACS患者では、PA治療に対する抑うつおよび不安のスコアの改善が、ACSを持たない患者と比較して顕著であり、PA患者の精神病理学的症状にACSが関与していることが示唆された。さらに、うつ病と不安神経症のスコアには、男女間で有意な差があった。

 

Main Result

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PHQDと向精神薬投薬率:女性(A)と男性(B)

 

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GAD7と向精神薬投薬率:女性(A)と男性(B)

 

Quality of life analyzed with the SF-12 questionnaire with physical and mental subscores in female (A) and male (B) patients with primary aldosteronism at baseline and after therapy initiation (follow-up) depending on autonomous cortisol co-secretion (ACS) or no-ACS at baseline. A higher score means less physical and mental complaints. The average score of the German population is shown as a dotted line (dependent on sex and subscores). Data are displayed as mean ± SD.

 SF-12 (精神サブスコアと身体サブスコア):女性(A)と男性(B)

 

 

・ PA療法の種類に関する分析では、ADX (手術:副腎摘出) よりもMRA (薬物: アルドステロン拮抗薬)を受けた患者の方が、追跡調査時のGAD-7スコアが有意に高かった(4.9±4.4 vs 3.7±4.4; P = 0.017)が、PHQ-Dスコアには差がなかった(P = 0.08)

・ 手術と比較して、薬物治療ではフォローアップ時にSF-12精神スコアが悪かったが(48.2±10.6 vs. 53.3±8.3; P = 0.001)、SF-12身体スコアには差が見られなかった 

・ 男女別の分析では、SF-12精神スコア、GAD-7、PHQ-Dにおいて、MRAとADXの間に有意な差はなかった。また、ADXを受けた男性は、SF-12身体スコアにおいて、MRA療法を受けた男性よりもスコアが悪かった(42.4±12.1対52.1±5.5、P = 0.03)

 

Discussionの興味深い内容

・本結果で興味深いのは、やはり結果に顕著な性差があることです。おそらく、コルチゾルとアルドステロンの影響に性差があること

・過去にこれまでの研究で、ミネラルコルチコイド受容体(MR)が恐怖条件付けパラダイムにおける行動に関わるであることが示されている(本文未記載)

・さらに、前脳にあるMRを欠損させると、雌雄のマウスで情動行動や認知行動に大きな違いが生じ、ストレスや不安に支配された疾患の雌の有病率にこの受容体が関与していることが示唆されたという研究結果がある Eur J Neurosci. 2012;36(8):3096

 

最後に

これまで沢山の原発性アルドステロン症(以下PA)の患者さんを診てきましたが、特に女性のPA患者さんに泣かれることが多くて、なんでだろう?とずっと気になっていましたが、そもそもPA患者にはこんなにも不安・うつが多いことを、この論文よんで知りました。。。

大学病院勤務し始めたばかりの頃に、PAの女性患者さんに点滴針挿入を一度失敗したら、泣かれて担当交代させられたことは今でも記憶に残っています…

その後、女性のPA患者さんに外来や病棟で泣かれたことが2度ありました。もちろん、ついでに誤解がないように言っておきますが、他の症例で泣かれたことはありません!

 

ちょっと一言

本研究はRelevarentで臨床的に非常に興味深い内容ですが、やや統計学的検討があっさりしています。本母集団の年齢をみると、特に女性は閉経前後の患者が多いですね。更年期障害による精神症状をみている可能性もあるので、是非、年齢補正してほしいところです。むしろ、エストロゲンとアルドステロン、コルチゾルとの関連もあるのかもしれませんが、、、

甲状腺全摘後 / RI 後の甲状腺ホルモン補充 ~目指すべきは「TSH正常」ではない!?~ (内分泌総会2021まとめ)

先月末より内分泌総会2021がオンライン開催中です

オンラインなので、時間のあるときにゆっくり聞けて、細かい参考文献もメモることができるので便利!

隈病院 伊藤充先生の甲状腺術後およびバセドウ病131I内用療法後のLT4補充療法」の講義はとってもタメになりました。

採血結果でホルモン値全部正常!いいね!って思っていても、何故か甲状腺機能低下症の症状を訴える人もいます。採血結果全部が黒ければ(正常範囲)いいって訳ではないのが、内分泌領域の面白いところですね

 

本講義の要点

甲状腺全摘後またはアイソトープ治療(RI) 後の残存甲状腺がほとんど残っていない場合、レボチロキシン(LT4)内服中の患者において

1.TSH軽度抑制かつFT3正常で Euthyroid もしくは Eumetabolism

2.TSH正常でFT3低値で軽度のHypothyroid もしくは Htyometabolism

であるため、

・TSH目標値は 0.03~0.3 μIU/ml or 正常下限~正常の1/10

・FT3目標は正常範囲内

を目指すべし!

 

 

はじめに

甲状腺のホルモン産生が見込めない症例ではTSH正常が本当にBESTか?

・ ガイドラインに書いてある「甲状腺ホルモン改善とともにTSH正常化を目指す」という文言にピットフォールあり

・ 血中T4は100%甲状腺由来だが、血中T3は80%が末梢でT4から変換されたものであるが、残り20%は甲状腺から直接産生されたものである

・ TSHのフィードバック機構は血中T4濃度によって調整されている。故に、たとえTSHが正常であっても、レボチロキシン(LT4)投与のみでは甲状腺由来のT3が不足することで血中T3の相対的低下が予想される

 

術後およびRI後のLT4内服患者の甲状腺ホルモンバランスについてのこれまでの議論

・ 全摘後LT4補充中、TSH正常(0.3<TSH<5 μIU/ml)では術前よりも血中FT3は低値であり、術前のFT3値を達成していたのは軽度TSH抑制状態(0.03<TSH≦0.3 μIU/ml)の患者群であった(Eur J Endocrinol 167:373, 2012)
・ RI後の甲状腺萎縮状態でLT4内服している患者の血中FT3濃度はTSH正常では有意に低値になる。その一方で、RI後でも甲状腺体積が10mlを超えている症例では、TSH正常でも血中FT3濃度が健常人と同等であった(Thyroid 29:1364,2019)

 

本議題に関する疑問点

1.血中TSHと血中T3値に乖離が生じるのはなぜ?
2.末梢の各臓器内のT3あるいはT4の含有量について
3.甲状腺関連の代謝指標
4.身体症状との関連
5.甲状腺がんにて全摘後にTSH抑制療法が行われるが、骨粗鬆症や心血管イベントのリスクはないのか?

 

1.血中TSHと血中T3値に乖離が生じるのはなぜ?

 末梢組織でT4が上昇すると、T4→T3へ変換される際に必要となる2型脱ヨウ素酵素(D2)の異化が生じる。視床下部ではそのD2異化が生じないため、T4からT3への変換が過度に生じている。また、下垂体では末梢と視床下部の中間くらいのD2異化が生じる。

 そのため視床下部>下垂体>末梢組織の順で血中T3濃度に差が生じる。

 

補足1: iodothyronine deiodinases(D1,D2,D3について)

・ iodothyronine deiodinasesはD1, D2, D3の3種類ある
・D1、D2は、T4をT3に変換する。
・D1は主に肝臓と腎臓に発現し、甲状腺と下垂体にも発現
・D1は甲状腺機能亢進症で発現し、甲状腺機能低下症では低下し、プロピルチオウラシルで阻害される
・D2は主に中枢神経系(下垂体、視床下部)と褐色脂肪組織に発現し、甲状腺や骨格筋にも発現
・D2は小胞体に局在し、T3が核へアクセスするを容易にする。そのため、D2を発現している器官は局所的に生成されたT3を使用する傾向にある
・D2はT4によって制御されており、甲状腺機能低下症で上昇し、甲状腺機能亢進症で抑制される
・D3は、T3代謝の主要な不活性化経路を触媒する
・D3は中枢神経系と胎盤に多く存在し、皮膚と子宮にも発現 

 

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https://basicmedicalkey.com/thyroid-and-anti-thyroid-drugs-2/ Figure 39–3 より抜粋

 

2.末梢の各臓器内のT3あるいはT4の含有量について

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 1995 Dec;96(6):2828-38. doi: 10.1172/JCI118353.

マウス実験では、TSH正常ではいくつかの臓器でT3濃度が少なかったが、TSH軽度抑制では不足している臓器はなかった

 

足2:血中の甲状腺ホルモンレベルと各臓器の細胞内甲状腺ホルモンレベルについて

 甲状腺ホルモンは長い間、単純な拡散によって細胞膜を通過すると考えられていたが、最近の研究では、モノカルボン酸トランスポーターファミリー(MCT)や有機アニオントランスポーターポリペプチド(OATP)といった多くの甲状腺ホルモントランスポーターが同定され、これらは甲状腺ホルモンの細胞内濃度を維持するための重要な役割を担うことが明らかになった。つまり、細胞膜に存在する輸送体によって細胞内T3濃度が調整されているためで、末梢中に循環しているホルモンと各臓器内(細胞内)のホルモンには差が生じる。したがって、LT4単剤内服中の患者において、甲状腺機能正常な本来の状態よりも血清T4濃度を高く、血清T3濃度が低くなっている状態でも、これらの輸送体がT3の細胞内レベルを調節している可能性がある。MCTトランスポーターとOATPトランスポーターは、肝臓、腎臓、脳、心臓で発現しており、MCT8とOATP1C1は脳で重要な役割を担っている。

 

参照) Guidelines for the Treatment of Hypothyroidism: Prepared by the American Thyroid Association Task Force on Thyroid Hormone Replacement(2014

 

3.甲状腺関連の代謝指標

・ マウスの基礎実験だけでなくヒトにおいてもTSH正常+FT3低値では代謝 (脂質代謝) が落ちていることが示されている (Ito M et al. Thyroid 2017; 27: 484)

 

4.身体症状との関連

・ 甲状腺全摘後にTSH正常+FT3低値では日常動作と寒暑の自覚症状が術前に比べて有意に増える (Ito M. 2019; 66:953)

甲状腺文化癌術フォLT4内服患者 319例 (TSH 0.07 IU/l)について後ろ向きに検討した結果↓

 ・26%の患者が低下症状を、9.7%の患者が亢進症状を訴えた
 ・低下・亢進症状のともにFT4よりFT3の関与が大きい
 ・低下症状はFT3正常範囲、TSH抑制状態においても認めた
(Larish R et al. Clin Endcrinol Diabetes 2018)

 

5.甲状腺がんにて全摘後にTSH抑制療法が行われるが、骨粗鬆症や心血管イベントのリスクはないのか?

甲状腺がん術後でTSH抑制療法中患者のメタ解析では、閉経後女性で骨粗鬆症のリスクになるが、閉経前女性や男性ではリスクの増加は認めなかった (Surge Oncol 2002, 79:62 , Thyroid. 2006:16:583)

・心房細動の増加は稀で、TSHレベルではなく累積RI投与量が関連していた(Thyroid. 2015; 25:300 , JCEM 2015; 100: 4563)

・心血管死亡率と全死亡率はTSH軽度抑制では増大しなかった(ただし完全抑制ではリスクは上昇)(J clin oncol 2013; 31: 4046)

 

補足:TSH抑制療法に関する専門的な意見(B. Biondi, DS. CooperEndocrinol Metab Clin N Am 2018)
・外因性潜在性甲状腺中毒症では、血中T3またはFT3濃度が基準範囲の中位または下位にある。
・したがって、内因性潜在性甲状腺中毒症(バセドウ病やTMTG)と外因性潜在性甲状腺中毒症(術度TSH抑制療法)は、重症度や循環甲状腺ホルモンレベルが異なるため、生化学的には比較できない
・このことは、内因性潜在性甲状腺中毒症と外因性潜在性甲状腺中毒症の心血管および骨への影響が異なる可能性を示唆している。

 

隈病院でのLT4内服による治療目標指針

1.甲状腺全摘後、甲状腺萎縮症例(RI後)ではTSHとFT3の2項目を測定

1-1.低リスク症例 or 無病状態

→ 「TSH軽度抑制(TSH: 0.03~0.3 μIU/ml, or 正常下限~正常の1/10)+ FT3正常範囲内」 を目指す

1-2. 高リスク症例(甲状腺癌あり)

→ 「TSH < 0.1 μIU/ml + FT3が正常範囲」 を目指す

 

2.甲状腺組織が十分ある症例(片葉切除後、橋本病など)

2-1. 甲状腺ホルモン補充
TSHとFT4の2項目を測定

→ 「両者正常範囲」を目指す

2-2. TSH抑制を要する症例(巨大甲状腺腫など)

TSHとFT3の2項目を測定

→ 「TSH軽度抑制(TSH: 0.03~0.3 μIU/ml, or 正常下限~正常の1/10)+ FT3正常範囲内」を目指す

*保険適応上、TSH, FT4, FT3が同時測定できないことが前提


米国甲状腺学会による甲状腺機能低下症のガイドラインではどう書かれているか?

7b.

Does levothyroxine therapy that returns the serum thyrotropin levels of hypothyroid patients to the reference range also result in normalization of their serum triiodothyronine levels?(甲状腺機能低下症患者において、LT4治療によるTSH濃度の正常化は血清T3濃度の正常化をもたらすか?)

Patients with hypothyroidism treated with levothyroxine to achieve normal serum TSH values may have serum triiodothyronine concentrations that are at the lower end of the reference range, or even below the reference range. The clinical significance of this is unknown.(血清T3濃度は正常下限値ないしは低値となるが、臨床意義は不明)

 

7d.

Should levothyroxine therapy for hypothyroidism, particularly in specific subgroups such as those with obesity, depression, dyslipidemia, or who are athyreotic, be targeted to achieve high-normal serum triiodothyronine levels or low-normal serum thyrotropin levels?(このようなサブグループにおいて、血清T3濃度の正常化やTSH軽度抑制状態を治療目標とするべきか?)

 

There is insufficient evidence of benefit to recommend that treatment with levothyroxine be targeted to achieve low-normal thyrotropin values or high-normal triiodothyronine values in patients with hypothyroidism who are overweight, those who have depression or dyslipidemia, or those who are athyreotic.(Evidence不十分で結論不明)

 

参照) Guidelines for the Treatment of Hypothyroidism: Prepared by the American Thyroid Association Task Force on Thyroid Hormone Replacement(2014) https://www-liebertpub-com.kras1.lib.keio.ac.jp/doi/full/10.1089/thy.2014.0028

 

脂質マネジメントからみる更年期ホルモン補充に関して

Corrigendum to: Lipid Management in Patients With Endocrine Disorders: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline” 

The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 106, Issue 6, June 2021, Page e2465, https://doi.org/10.1210/clinem/dgab175

29 March 2021

 

今回は、「内分泌専門医による脂質管理ガイドライン」の誤植(修正)に関する内容です。誤植というより、"ある点"にかんして、断定を避けるような書き方(Hedgingともいいます)になっています。脂質管理ガイドラインシリーズも3回目でこれで最後にします。

 

dr-bon.hatenablog.com

 

その"ある点"というのは、「閉経後のホルモン療法のベネフィットとリスク」に関してです。このGL(ガイドライン)作成面子の中に、女性ホルモン補充の専門家がいなかったのでしょうか?あとからその界隈の方々につっこまれたのだと予想されます。

 


今回のポイント

更年期障害に対するホルモン補充は10年未満(おおよそ60歳未満)であれば症状緩和のための有効で安全な治療手段となり得る。しかし、閉経後10年以上経過している症例では脂質管理のためにホルモン補充療法を続けるのは推奨できない」

 

修正内容


修正点 1


✕:「ホルモン療法は心血管疾患増加の危険因子である」
○:「ホルモン療法は心血管疾患、特に静脈血栓塞栓症および脳卒中のリスクを増加させる。しかし、心血管疾患の絶対的なリスクは、高齢の閉経後女性に比べて若年層では低い。

 

修正点 2

✕:「長年にわたり、観察研究や症例対照研究では、更年期障害に対するホルモン療法がCVDを減少させることが示唆されていた。しかし、2つの大規模RCT(HERSとWHI)では、ホルモン療法が脳心血管疾患(CHDイベントや非致死性MI、さらには静脈血栓塞栓症脳卒中)を増加させると結論づけられており、特に高齢女性(閉経年齢から10年以上経過した女性)に投与した場合にはその傾向が強かった。したがって、ホルモン療法は、特に開始時期が遅い(60歳以上または閉経後10年以上経過している)場合、CVD増加の危険因子となります」

 

○:「長年にわたり、観察研究や症例対照研究では、更年期障害に対するホルモン療法がCVDを減少させることが示唆されていた。しかし、2つの大規模RCT(HERSとWHI)では、ホルモン療法(具体的には経口ウマエストロゲン0.625mgと酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mgの併用、または経口ウマエストロゲン0.625mgの単独投与)が脳心血管疾患(CHDイベントや非致死性MI、さらには静脈血栓塞栓症脳卒中)を増加させると結論づけられており、特に高齢女性(閉経年齢から10年以上経過した女性)に投与した場合にはその傾向が強かった。エクリンエストロゲン(CEE)の単独または酢酸メドロキシプロゲステロンMPA)との併用によるWHI試験では、1年後のCHD(非致死性MIまたは冠動脈死)リスクの増加がCEE+MPAで認められたが(HR 1.80、95%CI:1.08-2.99)、時間の経過とともに低下または中立の結果であった。介入後の追跡調査では、CHDイベントはプラセボと比較して、CEE+MPAで上昇し、CEEで減少したが、統計的には有意ではなかった。両試験とも、介入期において、脳卒中(通常は虚血性)、深部静脈血栓症、および総心血管系イベントが有意に増加したが、若年女性ではリスクが低かった。このように、ホルモン療法は、特に開始時期が遅い(60歳以上または閉経後10年以上)場合、CVDのリスクを高めます。

 

修正点 3

✕:したがって、脂質異常症の治療にホルモン療法を使用することは推奨しないが、更年期症状の緩和のためにホルモン療法を考慮してもよい

○:脂質異常症の治療にホルモン療法を用いることは推奨しない。ガイドラインは、CVDリスクを低減するための脂質異常症の治療に焦点をあてており、その観点からは閉経後の女性に対するホルモン補充療法は推奨されない。一方、比較的健康な若い閉経後の女性においては、ほてり、寝汗、睡眠障害などの更年期症状の治療にホルモン補充が適する可能性があることをこのGLは示唆している。

 

まとめ

つまり、このGLでは「閉経後女性に対するホルモン療法はCVDイベントを助長させる可能性があるため推奨されない」という立場で表明されていたのだが、

これだと"更年期症状に対する女性ホルモン療法がCVDイベントを起こす可能性があるから推奨されない"としてしまうと女性ホルモン補充自体が否定されているような誤解が生じる危険があったというわけです

むしろ、これまでのエビデンスからは「閉経してから10年未満のとくに60歳以下を対象とした比較的元気な方ではホルモン補充による血液凝固による合併症リスク上昇と関連しない」という結果が優勢なので、そこをはっきりさせたのだと思います。

 

 

 

内分泌専門医による脂質異常症マネジメント:治療薬の安全性について

 

前回の続きになります

dr-bon.hatenablog.com

 

今回は前回の内分泌専門医による脂質異常症ガイドラインの内容の続きで、とくに脂質降下薬の安全性に関するコメントをまとました。

 

ポイント

 

・スタチンは、ミオパチー (0.1%未満)、重篤な肝障害(10万人に1人)は思ったよりも頻度が少なく、むしろ副作用を気にしすぎて忍容性がないと誤って捉えられることのほうが多い

・スタチンによる予後改善効果が大きいと判断される患者において、軽度CK上昇、肝酵素上昇による継続中止は慎重にするべき

・エゼチミブはシクロスポリンと相互作用があることに留意

・胆汁酸樹脂は、一時的にTGを上げることがあるので、TG値が500mg/dL以上の人では禁忌

EPA+DHAは、TGが500mg/dLを超える患者の膵炎リスクを低下させることが示されているが、ASCVDリスクの低下に関するエビデンスはなく、心房細動および出血の増加と関連している

ナイアシンは、非常に扱いづらい…

 

1. スタチン

【ミオパシー/横紋筋融解】

・ ミオパシーの定義は、原因不明の筋肉痛や筋力低下、CK上昇が正常上限の10倍以上

・ 女性では男性より低いCK上昇でミオパシーが現れる可能性あり

・ スタチン開始後のミオパシーが発生までの期間は様々で、スタチン開始数年後に発生することもある

・ CK 10,000 IU/L以上やULN 40倍以上など極端な場合は、ミオパシーの重症型である横紋筋融解症を考慮する必要がある

・ 横紋筋融解症は、急性腎不全やミオグロビン尿などの腎障害を伴えば緊急処置が必要

・ ミオパシーは稀で、ほとんどのスタチンで0.1%未満、横紋筋融解症の発生率はさらに低く、0.01%未満である

・ ミオパシー/横紋筋融解症の危険因子としては、高齢、女性、糖尿病、中国系、腎不全、既存の筋肉疾患、甲状腺機能低下症、薬物相互作用など

・ ミオパシーの患者では、スタチンの投与を中止すると、通常、数日以内に筋肉の症状が消失し、CK値が低下し、2~3週間以内に正常値に戻る

・ 横紋筋融解が疑われる場合、集中的な水分補給は通常、腎不全の予防に有効

・ 約 10%の患者が、必ずしもスタチンが原因ではない有害な症状のためにスタチンの使用を中止しており、 しばしばスタチン不耐症とレッテルを貼られる

・ 最も一般的な症状は筋力低下や痛みであり、これらは通常、CKの上昇を伴わない

【糖尿病新規発症】

・ 無作為化対照試験およびRCTのメタアナリシスによると、スタチンは新たに糖尿病と診断されるリスクを増加させ、最も一般的なのは糖尿病の複数の危険因子を持つ患者であり、集団のベースラインリスクに応じて年間約0.2%の絶対的リスクがあることが示されている

・ 新たに糖尿病と診断されるリスクが増加するにもかかわらず、スタチンのベネフィットがリスクを上回っており、通常、新たに糖尿病を発症した患者でも継続して使用される

 

【肝機能の有害事象】

・ 肝臓に作用するスタチン系薬剤は、臨床試験において最大1%の患者で、ULNの3倍以上の肝トランスアミナーゼの上昇(AST<ALT)が確認され、用量に関連した無症状の上昇を引き起こす。しかし、これらの患者は通常、重度の肝疾患を発症しない。

・ 慢性肝疾患患者を対象としたRCTを含む研究では、トランスアミナーゼの緩やかな上昇(ULNの3倍未満)を含む非アルコール性脂肪性肝疾患患者においても、スタチンは安全であることが示されている

・ トランスアミナーゼがULNの3倍まで上昇し、その他に肝性脂肪症の証拠がある人でも、LDL-Cおよび/またはCVのリスク低減のために必要であれば、スタチンを安全に開始することができる

・ 重篤な肝障害(肝毒性)は極めて稀であり、10万人に1人程度と推定され、臨床試験では検出されない


2. エゼチミブ

・ トランスアミナーゼの上昇が観察されているが、エゼチミブを服用している患者ではまれであり、エゼチミブが原因である可能性は低い。ただし、中等度または重度の肝疾患を有する患者には使用すべきではないとされている

・ 6年間の追跡調査による無作為化比較試験のデータでは、エゼチミブがミオパチー/横紋筋融解、肝トランスアミナーゼの3倍以上の上昇、胆嚢障害(胆嚢摘出術を含む)、またはがんを引き起こすという証拠はなかった

・ エゼチミブはシクロスポリンの血漿中濃度を上昇させるため、シクロスポリンの濃度を監視する必要がある

 

3. 胆汁酸結合樹脂

・ 胆汁酸結合樹脂の副作用には、便秘、腹痛、膨満感、鼓腸、肝トランスアミナーゼの上昇などがある

・ 胆汁酸の結合は、葉酸脂溶性ビタミン、さまざまな医薬品の吸収を低下させるので、これを防ぐために、薬は胆汁酸結合樹脂の2~4時間前または4~6時間後に服用する必要がある

・ Colesevelamは胃腸障害の副作用が少なく、このクラスの薬剤の中では最も忍容性の高い薬剤と考えられている。また、胆汁酸に対する選択性が高いため、他の薬剤や栄養素の吸収を阻害する可能性が低い。

・ 胆汁酸樹脂は、TG値が500mg/dL以上の人では、TG値を10%~20%上昇させる可能性があるため禁忌とされている

 

4. フィブラート

・ 米国の有害事象報告システムの評価では、フェノフィブラートとスタチンによる横紋筋融解症は処方箋100万件あたり4.5件報告

・ シンバスタチンを背景にフェノフィブラートとプラセボを評価した大規模な無作為二重盲検CVDアウトカム試験(5,000人以上)では、約5年間の追跡調査の結果、ULNの10倍以上のCK上昇の発生率は、フェノフィブラート群で0.4%、プラセボ群で0.3%

 

5. オメガ3系脂肪酸

・ オメガ3脂肪酸は、EPA+DHAまたはEPA単独で、TGを多く含む肝臓でのVLDLの生成を抑え、また、LPL活性を高めることでTGを多く含むリポタンパク質のクリアランスを増加させる可能性がある

・ REDUCE-IT試験では、ASCVDリスクの高い参加者をEPAエチルエステル群 (4g/day)とプラセボ群に無作為に割り付け、CVアウトカムを比較した。結果、ASCVDイベントの有意な減少が認められ、リスク/ベネフィットは良好であった。しかし、EPAエチルエステル群では、心房細動・心房粗動による入院が多く(3.1%対2.1%)、重篤な出血のイベントが多く(2.7%対2.1%)認めた(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/

・ オメガ3酸エチルエステル(EPADHAの組み合わせ)は、TGが500mg/dLを超える患者の膵炎リスクを低下させることが示されているが、ASCVDリスクの低下に関するエビデンスはなく、心房細動および出血の増加と関連している

 

6. ナイアシン

・ TG、総コレステロール、LDL-Cを減少させ、HDL-Cを増加させる
・ 安全性に問題があるため、ヨーロッパでは処方されていない
・ 最も一般的な有害事象は、顔面紅潮と痒み
・ ナイアシン血漿グルコースを増加させるため、新規糖尿病発症の増加と関連がるといわれている
・ AIM High試験およびHPS2-THRIVE試験で確認されたナイアシンのその他の重篤な副作用には、肝毒性(まれ)、感染症、GI出血、ミオパシーなどがあった
・ HPS2-THRIVE試験では、追跡期間が約4年であったため、スタチンにナイアシン・ラロピプラントを追加しても、ASCVDに対するベネフィットは示されなかった。
・ この結果とナイアシン治療に伴う安全性の問題から、今日ではナイアシンは使用を制限すべきであり、とくに糖尿病や耐糖能異常のある人にはおそらく使用すべきではないと考えられている。