糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

脂質マネジメントからみる更年期ホルモン補充に関して

Corrigendum to: Lipid Management in Patients With Endocrine Disorders: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline” 

The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 106, Issue 6, June 2021, Page e2465, https://doi.org/10.1210/clinem/dgab175

29 March 2021

 

今回は、「内分泌専門医による脂質管理ガイドライン」の誤植(修正)に関する内容です。誤植というより、"ある点"にかんして、断定を避けるような書き方(Hedgingともいいます)になっています。脂質管理ガイドラインシリーズも3回目でこれで最後にします。

 

dr-bon.hatenablog.com

 

その"ある点"というのは、「閉経後のホルモン療法のベネフィットとリスク」に関してです。このGL(ガイドライン)作成面子の中に、女性ホルモン補充の専門家がいなかったのでしょうか?あとからその界隈の方々につっこまれたのだと予想されます。

 


今回のポイント

更年期障害に対するホルモン補充は10年未満(おおよそ60歳未満)であれば症状緩和のための有効で安全な治療手段となり得る。しかし、閉経後10年以上経過している症例では脂質管理のためにホルモン補充療法を続けるのは推奨できない」

 

修正内容


修正点 1


✕:「ホルモン療法は心血管疾患増加の危険因子である」
○:「ホルモン療法は心血管疾患、特に静脈血栓塞栓症および脳卒中のリスクを増加させる。しかし、心血管疾患の絶対的なリスクは、高齢の閉経後女性に比べて若年層では低い。

 

修正点 2

✕:「長年にわたり、観察研究や症例対照研究では、更年期障害に対するホルモン療法がCVDを減少させることが示唆されていた。しかし、2つの大規模RCT(HERSとWHI)では、ホルモン療法が脳心血管疾患(CHDイベントや非致死性MI、さらには静脈血栓塞栓症脳卒中)を増加させると結論づけられており、特に高齢女性(閉経年齢から10年以上経過した女性)に投与した場合にはその傾向が強かった。したがって、ホルモン療法は、特に開始時期が遅い(60歳以上または閉経後10年以上経過している)場合、CVD増加の危険因子となります」

 

○:「長年にわたり、観察研究や症例対照研究では、更年期障害に対するホルモン療法がCVDを減少させることが示唆されていた。しかし、2つの大規模RCT(HERSとWHI)では、ホルモン療法(具体的には経口ウマエストロゲン0.625mgと酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mgの併用、または経口ウマエストロゲン0.625mgの単独投与)が脳心血管疾患(CHDイベントや非致死性MI、さらには静脈血栓塞栓症脳卒中)を増加させると結論づけられており、特に高齢女性(閉経年齢から10年以上経過した女性)に投与した場合にはその傾向が強かった。エクリンエストロゲン(CEE)の単独または酢酸メドロキシプロゲステロンMPA)との併用によるWHI試験では、1年後のCHD(非致死性MIまたは冠動脈死)リスクの増加がCEE+MPAで認められたが(HR 1.80、95%CI:1.08-2.99)、時間の経過とともに低下または中立の結果であった。介入後の追跡調査では、CHDイベントはプラセボと比較して、CEE+MPAで上昇し、CEEで減少したが、統計的には有意ではなかった。両試験とも、介入期において、脳卒中(通常は虚血性)、深部静脈血栓症、および総心血管系イベントが有意に増加したが、若年女性ではリスクが低かった。このように、ホルモン療法は、特に開始時期が遅い(60歳以上または閉経後10年以上)場合、CVDのリスクを高めます。

 

修正点 3

✕:したがって、脂質異常症の治療にホルモン療法を使用することは推奨しないが、更年期症状の緩和のためにホルモン療法を考慮してもよい

○:脂質異常症の治療にホルモン療法を用いることは推奨しない。ガイドラインは、CVDリスクを低減するための脂質異常症の治療に焦点をあてており、その観点からは閉経後の女性に対するホルモン補充療法は推奨されない。一方、比較的健康な若い閉経後の女性においては、ほてり、寝汗、睡眠障害などの更年期症状の治療にホルモン補充が適する可能性があることをこのGLは示唆している。

 

まとめ

つまり、このGLでは「閉経後女性に対するホルモン療法はCVDイベントを助長させる可能性があるため推奨されない」という立場で表明されていたのだが、

これだと"更年期症状に対する女性ホルモン療法がCVDイベントを起こす可能性があるから推奨されない"としてしまうと女性ホルモン補充自体が否定されているような誤解が生じる危険があったというわけです

むしろ、これまでのエビデンスからは「閉経してから10年未満のとくに60歳以下を対象とした比較的元気な方ではホルモン補充による血液凝固による合併症リスク上昇と関連しない」という結果が優勢なので、そこをはっきりさせたのだと思います。