糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

JAMA:高齢者への1次予防目的のアスピリン使用率とその問題点

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JAMA Netw Open. 2021;4(6):e2112210. doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.12210

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2781116

 

本日は、予防疫学に関する論文をピックアップしました

 

 

「社会政策のためのビックデータを用いた疫学研究」のお手本となる論文です

予備知識として、CVD発症の1次予防目的で使用されるアスピリンに関して、2018年に行われた3つのRCTを知っておく必要があります(→イントロ)

それでは行きましょう

Take home Message

高齢者では、糖尿病の有無に関わらず、アスピリンの使用はその有益性が有害性に優るというエビデンスは乏しい

しかし、米国では、70歳以上の高齢者に1次予防のためのアスピリンをこれまで通りにルーチンに使い続けている割合が高いことが示唆された

とくに、糖尿病がある患者では、その傾向が強く現れていた

キーポイント

 Key Finding 1:

2011~2018年までの米国成人の60歳以上かつ糖尿病罹患者は61.7%に対し、糖尿病非罹患者は42.2%がアスピリンを使用

 

Key Finding 2:

アスピリン使用率は、非糖尿病者では高齢になるほど、また心血管疾患リスクが高くなるほど増加したが、糖尿病患者では一様に高かった (Table 2, 3 ↓)

 

Meaning:

最近改訂されたガイドラインでは、70歳以上の成人ではルーチン的なアスピリン使用(1次予防として)を控えるように勧告しているのもかかわらず、今回の結果であった…。 つまり、高齢者でもルーチン的なアスピリン使用を積極的に中止しなければ、特に糖尿病のある人ではアスピリンの過剰使用につながる恐れがある

イントロ

2018年にアスピリンによるCVD発症の1次予防に関して、3つのRCTが行われた

以下↓ に概要を記す

 

1. ARRIVE試験

糖尿病なしの55歳(男性)または60歳(女性)以上の平均的なリスク集団において、アスピリン使用とプラセボを比較したが、CVDイベントに差はなかった

2. ASPREE試験

70歳以上の一般集団、または65歳以上の黒人とヒスパニック系の人々を対象とし、CVD、認知症、その他の障害のない成人では、プラセボと比較してCVD予防の効果は認めらず、出血と全死亡のリスクは有意に増加していた

3 ASCEND試験(N Engl J Med. 2018;379(16):1529)

この試験では、40歳以上の糖尿病患者の一次予防目的アスピリン使用で、"CVDイベントリスク" が有意に低下したが、同時に "Major Bleedingの発生率" もほぼ同じ程度に高くなっていた

 

↑これら3つのStudyの結果から、

「高齢者を対象とした場合、糖尿病の有無にかかわらず、1次予防目的で使うアスピリンの有益性は一様ではないが、出血性有害事象のリスクが有意に増加とは関連している」ことがわかった。

現状、どの程度多くの高齢者に1次予防でアスピリン使われているかを把握したいため本研究をおこなった

要約

Intro:

最近の研究では、高齢者では予防的アスピリン使用が有害性を上回る可能性が示唆されている。したがって、高齢者における将来的な有害性のリスクを最小限に抑えるために、現在のアスピリン使用状況を把握することが重要である。

Aim:

米国の高齢者で、糖尿病の有無にかかわらず、一次予防および二次予防のためにアスピリンを使用している有病率を、年齢、性別、CVDリスク分類別に明らかにする。

Data/Design:

・2011年~2018年までの国民健康・栄養調査の全国代表データを用いた横断的分析 ・糖尿病の有無にかかわらず、60歳以上の7103人が予防的アスピリン使用に関するアンケートに回答

Outcome:

・予防的アスピリン使用を「参加者が医師の助言または自分の判断に基づいて低用量アスピリンを使用したという自己申告あり」と定義

Result:

・合計7103人(平均年齢69.6歳、男性45.2%、白人75.8%)

・米国の高齢者で糖尿病のある人の61.7%がアスピリンを使用していたのに対し、糖尿病のない人では42.2%

・糖尿病患者では、人種、性別、教育、CVDリスクカテゴリー、肥満度を調整した多変量ロジスティックモデルにおいて、高齢者と若年者(基準:60~69歳)のアスピリン使用の可能性に差はなかった

・糖尿病のない人では、年齢が高いほどアスピリンの使用率が基準値よりも有意に高かった

・糖尿病の有無にかかわらず、70歳以上の米国成人のうち、推定990万人が一次予防のためにアスピリンを服用していると報告

・CVDのリスクが高い人と低い人における一次予防のためのアスピリン使用の可能性は、糖尿病のある高齢者では差がなかったが、糖尿病のない高齢者では有意に高かった

・糖尿病のある女性と男性では、一次予防のためにアスピリンを使用している割合が低かった(モデル3、OR、0.63、95%CI、0.48-0.83)

Conclusion:

・糖尿病のある高齢者の方が、糖尿病がないよりもアスピリン使用による出血リスクが高いことはすでにわかっているにもかかわらず、糖尿病のある高齢者の方が、糖尿病がないよりも予防的アスピリン使用率が高いことがわかった ・これまで一次予防のためにアスピリンを服用していた990万人の米国の高齢者では、特に糖尿病を持つ場合おいて、その継続的な使用が必要か見直すべきだろう

 

Figure and Table

 

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Figure. Aspirin Use by Age Group and Cardiovascular Disease (CVD) Status in Older Adults With (n = 1987) vs Without (n = 5116) Diabetes

 

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さいごに

この、1次予防目的で使用されていたアスピリンのように、これまで若い世代を対象とした試験結果から、良しとされて続けられている治療が、高齢者にとって本当に益が優るのかどうかは慎重に判断していくべきでしょう

このような研究は、特に今後の高齢化社会では意義を増してきます

これまでは、高齢者のデータが少なく、高齢者にどこまで医療介入をすべきなのか不明な点が多いのが現状でした。でも、今では、ヒトの寿命が急激に伸び、加えて情報社会の成熟によって高齢者(70歳以上)を対象としたデータが使えるようになりました

これから、高齢化先進国の日本のデータを用いることで、このような高齢者対象の予防疫学的研究をもっと世界へ発信されることが期待されます

 

追記(20210718)

Medscapeでもコメントされてましたので追記します

www.medscape.com