糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

Thyroid:バセドウ病患者への、5~10年のメルカゾール長期治療は放射性ヨウ素療法に優る!?

Thyroid 2020, Vol. 30, No. 10
Long-Term Treatment of Hyperthyroidism with Antithyroid Drugs: 35 Years of Personal Clinical Experience
Fereidoun Azizi

・はじめに

最近、久々に自分の専門であるバセドウ病のup to date の記事をみてみました。
すると、こんな1文が

 

"Antithyroid drugs will control hyperthyroidism in most patients as long as the drug is taken, but remission rates (the percentage of patients who remain euthyroid one year after the drug is withdrawn) average under 40 percent after one to two years of treatment [9], but have been reported to exceed 80 percent after 5 to 10 years of treatment [12]."

Up to date (Graves' hyperthyroidism in nonpregnant adults: Overview of treatmentより)

 

5~10年抗甲状腺薬を続けていると80%以上の寛解率なんて聞いたことないけど!!?
というわけで、もととなった文献を調べてみたところ、その内容が非常に秀逸で面白かったのでまとめます。筆者の個人的な "経験" と "臨床研究のレビュー" をコラボさせたタイプの珍しいスタイルです。論文の中に主語の "I" がやたら出てきていて新鮮でした。

 

・概要

背景

すべてのバセドウ病が患者が甲状腺機能の正常化を達成できる治療は現時点では存在しない

目的

バセドウ病甲状腺機能亢進症の管理における著者(1人)の35年間の経験を記述しながら、甲状腺機能亢進症の長期的な内科的治療に関して発表された最新の論文をレビューする

方法

4年以上の継続的な抗甲状腺薬(ATD)治療に関連するすべての発表論文を検索し、さらに著者が同じテーマで発表した研究を追加・比較した

結果

長期間ATD治療は、小児・成人ともに甲状腺機能亢進症の治療に有効で安全であった。60ヶ月以上の長期のATD投与後にATDを中止した後は、4年以上の甲状腺機能正常化が認められた。長期間ATD治療は放射性ヨウ素治療に劣らず、血清脂質、心機能、うつ、認知度を考慮すると、それより優るかもしれない

結論

バセドウ病に対する長期ATD療法は、効率的かつ安全で、多くの患者で甲状腺機能低下症になることなく、甲状腺機能をコントロールできる

 

・ポイント

アメリカの甲状腺学会は、12〜18ヶ月のATD療法で寛解が得られない場合には、RAIか手術に切り替えることが推奨してます。一方、個人の経験と最近のエビデンスに基づいて、長期間ATD療法でも甲状腺機能を確実にコントロールすることができるということが、この筆者の主張になります。

しかも、ATD治療のほうが、RAIよりもTCとLDLが低いことや、気分障害や認知機能低下も少ないという結果も示しております。実際、健常人よりもチラージン補充患者では精神的健康状態が悪いという既報もあります(これはRAI後や甲状腺全摘後の至適FT4が高めに設定されるべきであるという議論とも関係すると思っていますが…)。

さらに、「今後の研究では、特に2.5年以上の長期MMI療法後に再発するような少数の患者(16%以下)に焦点を当てるべきである」と提言して結論を締めくくっています。

また、今回の論文に書いてあることは、これまでの経験からも納得のいく内容ばかりでした。ですが注意スべきこととして、あくまでこれは甲状腺の専門家が書いているということです。つまり、万全とMMI治療してはならない患者を判断できることを前提とした内容です。たとえば、重度で甲状腺腫サイズが大きい場合には、ATDによる寛解率が低いことが知られています。このような場合は、治療中にRAIや手術への移行を積極的に促す必要なこともあることを忘れないでください。


・Main Tables and Figures

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↑こちらは小児と青年期の臨床試験になります。日本からのデータがなんと2つも!