糖尿病・内分泌専門医の勉強ノート

糖尿病・内分泌専門医による日々の勉強記録です。

潜在性甲状腺機能低下症と左心房機能の関連について

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 https://doi.org/10.1210/clinem/dgaa730

 

潜在性甲状腺機能低下症(subclinical hypothyroidism:SCH)の非常にコアなお話ですw

JCEMという自分の好きな雑誌に日本の研究が載っていたので、非常に嬉しくなったため勢い余ってまとめました

 

【本題の前に】

そもそも、内分泌内科へのコンサルトで多いのが「TSH高いのでどうすればよいか?」という内容です。なので、SCHの治療方法に関しても、そこまで馴染みのないかも多いのでは?

でもある程度決まった方針はあるので、一度知ってしまえばあんまり悩むことはない疾患でもあります

ここの岡本甲状腺クリニックの先生が書かれているものが読みやすいと思います。https://www.thyroid.jp/hashimoto/

まとめると、

・70歳以下でTSH 10以上であれば甲状腺ホルモン剤を服用

・それ以外は橋本病の進行、または他の原因で甲状腺機能低下症が進行しているかどうかを慎重経過観察し、必要時に服薬する

 

これは心不全発症をアウトカムとした研究用いられた基準を当てはめたものです。SCHは心不全発症のリスクを上げることは確からしいのですが、その理由は実はわかっていないのです。

 

なので、未だに色々研究されているわけです

 

【ひとことまとめ】

潜在性甲状腺機能低下症の心不全リスク予測に高感度心エコーによる左心房機能評価が有効かもしれない

 【注目ポイント】

・ 最新の高感度心エコーでわかるようなった「潜在性心不全」という概念

・ SCHが心不全リスクを上げるかどうかを「心臓の機能・形態といった生理的所見」から予測できる可能性について言及

【物語のはじまり】

SCHは、心不全発症の独立したリスク因子であるが、「潜在性」心機能障害との関連性については明らかになっていない 。

 

最近、従来よりも高感度の心エコーが開発され、左心室全体縦の歪みや左心房位相の歪みなどの潜在性左心不全の高感度マーカーとなる所見が最近測定されるようになった

 

そこで、研究グループは、SCH患者ではこの潜在性左心不全が存在している可能性があることを予想し、心疾患の既往がない一般集団を対象に、SCHと潜在的左心機能障害との関連を調べることを目的とした

【方法の要約】

心血管系の健診受診歴のある1078名を対象にLVGLS とLA phasic strainを評価するための心エコー検査を実施。また、SCHは、TSH上昇とFT4正常値と定義した。

【結果の要約と大事な図表】

平均年齢は62±12歳で56%が男性で78名(7.2%)の参加者が上記SCHの基準を満たした。SCH患者は甲状腺機能亢進症患者と比較して、LAリザーバー(P = 0.011)とコンジットストレイン(P = 0.012)が有意に減少したが、左室駆出率、LA volume index、LVGLS、LAポンプストレインには2群間で有意な差はなかった。多変量解析では、年齢、伝統的な心血管危険因子、LVGLS(P=0.032)を含む関連する実験室および心エコーのパラメータとは無関係に、SCHはLAリザーバーストレインの障害と関連していた。

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【結論】

SCHを持つ人は、甲状腺機能が正常の人に比べて、左心房の機能不全(LAの位相機能の低下)と関連のある異常所見を有意差を持って認めた

もしかしたら、左心房の機能を評価することがSCH患者のリスク評価に役立つかもしれない…

【ちょっと一言】

今回の研究ではTSH 10以上の患者が少なかったことがLimitationとして重要だと思います。裏を返せば、TSH 10以下の患者でもすでに左心房の機能がSCHによって落ちている可能性があるということにもなります。ですが、実際にはTSH 10以下では心不全発症リスクとの関連は明らかになっていないので、患者さんにお伝えする内容としてはここまでのことは言わないほうがいいと思います。